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福岡地方裁判所小倉支部 昭和29年(ワ)666号 判決 1956年9月08日

原告 岡田登 外四名

被告 国

訴訟代理人 川本権祐 外二名

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告等訴訟代理人は「原告等と被告との間に雇傭契約が存在することを確認する。被告は原告等に対して昭和二十九年三月十三日から同年七月十二日まで一ヵ月につき別紙目録記載の各原告名下の金員を支払わねばならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として

一、原告等は孰れも駐留軍労務者(日米安全保障条約に基き駐留するアメリカ合衆国軍隊のために労務に服する者)として被告(以下国という)に雇傭され、小倉市にある小倉キヤンプモータープールに勤務して一カ月につき別紙目録記載の各原告名下の賃金の支払を受けていた者であつて、駐留軍労務者の雇入、駐留軍への提供、給与の支払解雇等に関する事務は、政令の定める処により調達庁長官によつて都道府県知事に委任されているものである。

二、原告等は、昭和二十九年二月十一日附をもつて前記モータープール部隊の米軍士官ウルマン大尉より同年三月十二日限り原告等をそれぞれ解雇する旨告知されたが、これによつて国(その機関たる福岡県知事)は、右米軍士官の解雇の意思表示により原告等の雇傭は予告期限経過とともは当然終了したものとして同年三月十三日以降一切の賃金の支払をしない。

三、しかしながら、右の解雇は、左の理由によつて無効である。

1  米軍士官によつてなされた本件解雇の意思表示は、解雇の権限のない者の意思表示であるから、その効力を有しない。

原告等は国に雇傭された者であつて、これを解雇するには雇主たる国の機関を通じてその意思表示がなされねばならないのに米軍士官はいかなる意味においても国の機関でない。

2  本件解雇は、労働協約に違反したものであつて無効である。

原告等は孰れも全駐留軍労働組合の福岡地区本部小倉支部所属の組合員であるが、全駐留軍労働組合と国を代表する調達庁長官との間に昭和二十七年労働協約を締結し、同協約は本件解雇当時その効力を有している。しかして右協約の第十五条に「次の各号については、協議会で協議決定しなければならない。」と規定され、その第五号に「雇入および解雇退職に関する事項」と定められているから、個々の労働者を解雇するに当つては、協議会の協議決定を経ねばならないのにかかわらず、申請人等の本件解雇については、右の協議決定がなされていない。

3  本件解雇は解雇権の濫用として無効である。

イ  前記労働協約第十五条第五号が解雇に関する一般的な基準を協議会で協議決定するという意味であるとしても、右の一般的基準を協議決定するに至つていなかつた本件解雇当時において全然協約のないのと同様に解雇は自由であるとは解せられない、

前記労働協約により解雇に関する一般的基準を協議会で協議決定するということは定まつているのであるから、国および駐留軍労働組合双方は誠実に合理的な基準を定めるという義務を負い、右一般的基準ができるまでは右基準がかく決定せられるであろうという規範に従つて合理的な理由がなければ解雇できないと解せられねばならない。即ち合理的な理由もないのに解雇してはならないという協約は既に成立しているのである。

従つて、合理的理由のないのに解雇することは前記協約の趣旨に反し解雇権の濫用として解雇が無効である。これを本件についてみるときは、原告等は何等合理的理由がないのに解雇の通告を受けたのであるから、本件解雇は無効である。

ロ  本件解雇の理由とする処は、原告等が昭和二十九年二月八日米軍の労働政策に不当に干渉した事並びに二トン半トラツクを使用している職場(以下二トン半という)の監督者班長訴外合田勝を脅迫したというにあるけれどもそのような事実は全くなく、解雇に値する行為は全然ない。

即ち前同日午後五時頃前記モータープールの二トン半の運転手数名が右二トン半の班長である監督者右合田と右モータープール脇小倉市八坂神社境内において職場明朗化につき話合つていたので、たまたま帰途の運転手が何事かと約六十名程集合した。職場明朗化というのは、右合田が右モータープールの運転手工藤某に対し「おれはお前を首にしようと思えば何時でも首にできない事はないぞ」と云つてしかり、その直後右訴外工藤が解雇されたので、右合田の一喜一憂で解雇されては不安なのでこれが反省を求める意味であつた。しかして右集合場所で何人かが右合田に対し「同じ日本人でありまた班長としての立場から今少し運転手をかばつてやるといつた気持はないか」と云つた処、合田は「おれは前から班長をやめたいと思つていたが兵隊がやめさせてくれない。私がやめようとすれば何人かを道連れにしなければならない」と云つたので、訴外西村が「あんたがそんな気持で皆を使つているからこんな話合もしなければならないようになるではないか、その考を反省してくれと云つているのだが、あなたがそう云えば班長をやめてくれという声も出るではないか。」と云つたが、右合田が何も答えなかつたので、訴外石橋が「合田君にすぐ反省を求めても出来ないから明日の朝藤岡さんと西村さんに合田君から反省を聞いてもらつてそれを皆に報告してもらうようにしたらどうか。」と云つたので、集合者は了解して解散した。而してその夜前記モータープールに働いている訴外藤岡、長船および新森の三名が右合田をその自宅に訪問した処「まあ上りなさい。」というので居間に上つた。その際右合田の横には合田の妻子八名も同席していたがその場で同日夕方の集合の際の話題につき再び懇談した。その席では、茶、餅等も出され平和裡に話合つて別れたのであつて、何等脅迫等の事実はない。

然るに米軍は、右合田の一方的言分を聞いて、同夜の右訴外新森の言動は同日夕方の会合の決議に基く脅迫なりとし、単に当日集合しただけで何等かかることに関係のない原告等を解雇したのである。

本件解雇が解雇権の濫用であることは調達庁、県および渉外労務管理事務所においてもこれを認め、米軍に対して解雇の意思表示の撤回を申し入れてくれたのであるが遂に今日までその実現をみない。

四、以上のような次第で本件解雇の意思表示は無効であるから、原告と被告との間に雇傭契約が存在することの確認並びに前記昭和二十九年三月十三日から同年七月十二日までの前記賃金の支払を求めるため本訴請求に及んだ

と陳述し

五、国主張の事実に対して日本国政府とアメリカ合衆国政府との間に「日本人およびその他の日本在住者の役務に対する基本契約」が締結されていることは認めるが、その余の事実については争う

と述べた。

国指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として

一、原告等の主張事実中、

1  請求の原因一および二の事実

2  原告等が孰れもその主張の労働組合の組合員であつて、右組合と調達庁との間に昭和二十七年労働協約が締結され、本件解雇当時その効力を有していたこと。その第十五条に原告等主張のような条項があること。本件解雇が協議会の協議決定を経てなされていないこと。

3  原告等が軍の管理に対する干渉、監督者に対する脅迫の事実ありとの理由で駐留軍から直接解雇されたこと。

は孰れもこれを認めるがその余はすべて争う。

二、駐留軍による直接解雇の根拠について

国が駐留軍労務者を雇傭するのは、日本政府とアメリカ合衆国との間に締結されている「日本人およびその他の日本在住者の役務に対する基本契約」(以下基本契約という)に依拠し、右基本契約第七条によると駐留軍労務者は駐留軍指揮、監督管理を受け、駐留軍においてこれを引続き雇傭することが米国政府の利益に反すると考える場合には即時その職を免じスケジユールAの規定により、その雇傭が終止される。この雇傭を終止する駐留軍の決定は最終的なものであると定められている。そして右スケジユールAは賃金、労働時間その他の詳細な労働条件を定めるとともに更に解雇の予告は確定した期日を定めて日本政府または駐留軍が直接労務者本人に対し文書をもつて申し渡すべき旨を定めている。このように駐留軍労務者については形式上の雇傭主は日本国であるが実際上の使用主は駐留軍であるという通常の雇傭ないし労働契約にみられない極めて特殊な関係におかれて居り更にこの駐留軍の特殊な地位に基いて駐留軍はその独自の見地により自ら駐留軍労務者に対して直接雇傭を終止(解雇)する権限を留保しているのである。

而して右の基本契約および附属のスケジユールは実質的にみて就業規則たる性格を有し、駐留軍労務者の雇傭関係を規律する法規範たるべきものである。もつとも国は右に関し労働基準法所定の手続を履んではいない。しかし元来就業規則は多数労働者の就業する事業場において就業時間、賃金、退職等に関する事項についてすべての労働者を拘束する規則たる実質を有するものであるから、この種規則はそれが不文であれ、成文であれ、また成文化の態様や名称ないしは届出の有無如何にかかわらず実質的にみて当該事業場の労働者に共通する規則である限り就業規則たるの性格を有し、その内容が法令や労働協約に違反するものでない以上いわゆる正規の就業規則が当該事業場に採用される労働者の知不知を問わず、それが労働者を拘束するのと同様の効力を有するものといわねばならない。ところで日本政府が駐留軍労務者を雇入れるのは基本契約に基く義務の履行として米国政府に提供するためなのであるから、この基本契約において駐留軍労務者の就業時間、賃金退職等につき定められている条項は特別の事情から日本政府においてそれと異る定めをしていない限り、当然駐留軍労務者のすべてを規律する共通の定めとして就業規則の性格を有するものといわねばならない。のみならず日本政府においては、駐留軍労務者の就業時間、賃金、退職等(軍による直接解雇に関する事項を含む)につき基本契約の定める条項に符合する定めをし、これを関係下部機関に通達し、従来既に長い期間現実にその定め通り実行されてきでいるのであつて、軍によるこの直接解雇の条項は慣行上も実質的な就業規則として実施されてきたのであるから、駐留軍労務者として日本政府に雇傭されるものはその知、不知を問わず、それに拘束され、そこに予定されている特別の法律関係に服すべきものである。これを要するに原告等は孰れも駐留軍労務者として駐留軍から直接解雇され得べき特殊な地位にあつたものであり、駐留軍の正当な機関がその権限に基いて原告等に対してなした本件解雇の意思表示は当然原告等と国との雇傭関係を終了せしめる効力を有するものである。

三、労働協約第十五条に関する原告等の主張について

労働協約第十五条第五号は「雇入、解雇に関する基準その他の一般的事項」についてこれを労働協議会で協議決定すべき旨を定めたに止まりそれ以上何等特別の意味を有しないことは敢て縷述するまでもない。そして現在まで右協約にいう一般的基準は協議決定せられるに至つていない。

然るに、右条項を目して右以上の意味を有するものとし、本件解雇が協約の趣旨に反するといい、あるいは解雇権の濫用というはその前提において既に無理があり、それ自体理由のない主張といわざるをえない。

四、解雇の理由に関する原告等の主張について

元来使用者が労務者を解雇するについては、雇傭に期間の定めのない限り、別段の理由あることを要しない。したがつて、解雇権の濫用が許されないことはいうまでもないが特に正当の理由がなければ解雇できないというわけのものでない。

ところで、原告等は軍の管理に対する干渉並びに監督者に対する脅迫の事実ありとして駐留軍から直接解雇されたものであるが、原告等が職場明朗化を理由に、昭和二十九年二月八日午後五時頃小倉市内八坂神社境内において多数の者等とともに原告の勤務していた小倉綜合補給廠モータープールの監督者である訴外合田勝に対しその監督上の態度につき反省を求める趣旨の会合に参加したことは原告等の認めるところである。而してこれより先即ち昭和二十八年八月六日原告等の所属していた全駐留軍労働組合小倉支部は、当時行つていた争議を妥結するに当つて監督者の選定および維持については干渉しない趣旨の協定を軍ならびに渉外労務管理事務所との間に結んで居り、軍当局は前記の事実関係を調査の結果これを協定の趣旨に反する軍の管理に対する干渉として強硬な態度をとるに至つたもので、当初原告等を含む十一名に対する解雇の予告をしたが、その後関係機関の折衝、当事者の苦情申出もあつて当時の司令官アルフオードにおいて右十一名の各々について質問、調査の結果、内五名の予告は取り消されるに至つたが、原告等を含む六名については遂に取り消されるに至らなかつたものである。惟うにもともと信頼関係を必要とする雇傭関係にあつては、その信頼関係の存続が疑われるような事由がある場合には必ずしもその事実の存在が客観的に証明されなくとも直ちにその解雇が解雇権の濫用となるべきものでない。本件において監督者の選任維持については軍としてもその基地管理権の一環として尠からぬ関心を有するであろうことは容易に想像し得るところであり、かたがた前記のような取り極めもあつて原告等の前記会合に関連する言動につき調査の結果、原告等にそれぞれ軍の管理に対する干渉監督者に対する脅迫の事実ありと認めてこれを解雇したものである。

以上のような情況にあつた以上たとえその理由とする事実が客観的に証朋され得ないとしてもこれを目して解雇権の濫用というは当らない。その他殊更解雇権の濫用なりとする事情は存しない。

前記のように国の関係機関は国と軍当局との間の特殊な雇傭関係の下における本件事態の可及的円満な解決を望み、種々折衝努力を重ねたが、本件解雇が解雇権の濫用に該ることを是認してなしたものでないことは勿論である。

と述べた。

<立証 省略>

理由

一1  請求の原因一、二の事実

2  原告等が孰れも全駐留軍労働組合の下部組織である福岡地区本部小倉支部所属の組合員であつて、全駐留軍労働組合と調達庁との間に昭和二十七年労働協約が締結され、同協約が本件解雇当時効力を有していたこと。同協約の第十五条に「次の各号については、協議会で協議決定しなければならない。」と規定され、その第五号に「雇入および解雇退職に関する事項」と定められている。

右事項につきその一般的事項は協議会で協議決定に至つていないこと。

および本件解雇が協議会で協議決定の上なされていないこと。

3  日本国政府とアメリカ合衆国政府との間に基本契約が締結されていること。

4  原告等が軍の管理に対する干渉並びに監督者に対する脅迫の事実ありとの理由で駐留軍から直接解雇されたこと。

は孰れも当事者間に争がない。

そこで原告等主張の本件解雇無効の各理由について順次判断する。

二、米軍士官によつてなされた本件解雇の意思表示の効力について

原告等駐留軍労務者は日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基き駐留するアメリカ合衆国軍隊のために労務に服するため、国に雇傭された者であり、日本国政府とアメリカ合衆国政府との間に基本契約が締結されていたところ、成立に争のない乙第一号証の一、二、同二号証の一乃至四、同三号証および同五号証の一を綜合すると、国が駐留軍労務者を雇傭するのは、右基本契約に依拠し駐留軍労務者に関しては日本国が雇傭主であるけれども、駐留軍の労務に服するものであつて、その雇入および解雇については挙げて駐留軍の決するところに委されていることが認められるので、労務者の使用主は駐留軍であり、駐留軍労務者の解雇については雇主たる日本国が使用主たる駐留軍に委任したものと解するを相当とし、本件解雇の意思表示は駐留軍の正当なる機関がその権限に基いてなしたものと認められる。

右認定を左右するに足る措信すべき証拠はない。

してみれば駐留軍の権限ある者によつてなされた本件解雇の意思表示はその効力を有するものというべきである。

三、本件解雇が労働協約第十五条に違反するか。

労働協約第十五条は、その冒頭で「次の各号については協議会で協議決定しなければならない。」と規定し、その第五号に「雇入および解雇退職に関する事項」と定められている。

右条項は、概括的に「雇入、解雇に関する事項」という表現を用いていること。「解雇」に関する事項と別記してある「雇入に関する事項」の解釈についても、個々の具体的雇入に当つても前示協議を経なければならない趣旨とは思われないこと。前記のように駐留軍労務関係は、一般の雇傭とは異る特殊性を有するので、国の解雇権を制限して解雇の具体的決定までも協議会の協議に委せたものとは考えられないこと。および成立に争のない乙第五号証の一を綜合すると、右各号は、解雇に関する一般的な基準を定める場合を指したものであつて、個々の解雇について、その都度協議会の協議を要する趣旨と解することはできない。

原告等は右条号により、個々の労働者を解雇するに当つて協議会の協議決定を経ねばならないと主張するが、この点に関する甲第一号証の二は措信しがたく、他に右条号をその主張のように解すべき措信すべき証拠はない。

したがつて、本件解雇について、協議会の協議決定がなされなかつたことは、本件解雇を無効ならしめるものでない。

四、解雇権の濫用について

1  労働者を解雇するに当つては、解雇権の濫用の許されないことは云うまでもないところであるが、労働契約就業規則その他の契約または労働法の規定に反しない限り解雇は自由であつて正当の理由を要しないものと解するを相当とし、前記労働協約第十五条第五号が解雇に関する一般的基準を協議会で協議決定する趣旨と解すること前記のとおりであるから、本件解雇当時右一般的基準が協議会で協議決定されていなかつた以上原告等主張の三3イの主張はその前提において理由のない主張といわざるを得ず、本件解雇が解雇権の濫用にあらざることはいうまでもない。

2  原告等は、本件解雇は原告等に解雇に値する行為がなかつたのであるから、解雇権の濫用であると主張する。

前記のように、解雇には解雇権の濫用が許されないことはいうまでもないが、正当の理由を要するものでないのであつて、雇傭関係にあつては、その信頼関係の存続が疑われるような事由がある場合には、必ずしもその事実の存在が客観的に証明されなくとも解雇されることも亦やむを得ない場合がある。

そこで、本件解雇に至つた経緯をみるに成立に争のない乙第四号証および同五号証の一、二によると、昭和二十八年八月六日原告等の所属する全駐留軍労働組合小倉支部は当時行つていた争議を妥結するに当つて、駐留軍および福岡県小倉渉外労務管理事務所長との間に「争議妥結に関する同意書」と題する協定を締結し特にその第二項には「監督の選定および使用は使用者側の基本的特権であり、この職権は使用者側が有することを認め同意する軍人および非軍人監督が軍当局の定めた義務を果すための方法に一部労働者が不満があるからといつてこれ等の監督を解雇し、また移動せしめない。その結果として解雇および移動をなさしめるようなことはしないこと。」と規定せられていること、および本件解雇当時、駐留軍が正規に設けた不服申立機関として苦情処理委員会があつたことが認められるところ、(右認定に反する措信すべき証拠はない。)原告等はその認めるように昭和二十九年二月八日午后五時頃職場明朗化を理由に小倉市内八坂神社境内において多数の者とともに原告等の勤務していた小倉キヤンプモータープールの監督者である訴外合田勝に対し、その監督上の態度につき反省を求める趣旨の会合に参加したのであつて、成立に争のない乙第五号証の一、二によれば、駐留軍当局は右会合につき調査の結果、これを前記協定の趣旨に反する軍の管理に対する干渉として強硬な態度をとるに至り、当初原告等を含む十一名に対する解雇の予告をしたが、その后関係機関の十数回に亘る折衝と当事者の苦情申出により、駐留軍当局は右十一名に対する再調査の結果、内五名の予告は取り消したが、原告等を含む六名の予告は遂に取り消されなかつたことが認められ、右認定に反する措信すべき証拠はない。

ところで、成立に争のない乙第五号証の一、二によれば駐留軍労務者は、米国軍隊に労務を提供する関係上、軍隊における厳重な規律にしたがうべき特別の信頼関係を要請されているものであり、その労務者の指導監督は、日本人のなかから任命された監督を通じて行い、かつ前記認定によるも駐留軍当局は基地管理権の一環として監督者の選任維持につき特別な関心を有していたことが看取せられる。

右認定を左右するに足る措信すべき証拠はない。

以上のような情況の下に解雇された本件においては、その解雇を目して解雇権の濫用によるものであるとはいえない。

なお、また国が駐留軍当局に対し、その関係機関を通じて十数回に亘り折衝したことは、前記認定のとおりであるが、これをもつて直ちに国が本件解雇を解雇権の濫用であることを認めたものであると解することはできないし、他に国が本件解雇を解雇権の濫用であることを是認したと認めるにたる措信すべき証拠はない。

五、以上のように原告等の原告等に対する解雇が無効であると主張するところは孰れも理由がないから、解雇の無効であることを前提とする原告等の本訴請求は爾余の点を判断するまでもなく、失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 古賀俊郎 安東勝 柏原允)

目録<省略>

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